
静寂に包まれた和室。畳のいぐさの香りが、微かに鼻腔をくすぐる。
盤上には、長い歴史の中で研ぎ澄まされた81マスの宇宙が広がっている。対局者の息遣いだけが聞こえる張り詰めた空気の中で、「パチリ」と駒音が響く。その瞬間、盤上の景色は一変し、新たな物語が紡がれていく。
将棋という遊戯は、単なる知能ゲームの枠を超え、道具そのものが芸術的な美しさを帯びています。飴色に輝く盤、漆黒の文字が躍る駒。そして、その傍らにひっそりと、しかし確かな存在感を持って佇む「台」があることを、あなたは意識したことがあるでしょうか。
持ち駒を置くための、あの小さな台。あれには一体、どのような名前が付けられているのか。なぜあのような形をしているのか。
今回は、将棋盤の横にある「将棋の台」の名前から始まり、盤や駒に秘められた深淵なる世界、そして職人たちが込めた「魂」の在り処まで、極限まで深掘りしていきます。道具を知ることは、将棋という文化そのものを愛でること。さあ、奥深い道具の森へ足を踏み入れてみましょう。
【本記事の信頼性】
本記事は、以下の公的機関や専門団体の情報を基に、正確な知識と伝統的な文化背景を踏まえて執筆されています。
将棋の台の名前

将棋盤の脇に置かれる、あの小さな正方形の台。あれは単なる「物置」ではありません。対局者の魂の一部とも言える「持ち駒」を預かる、神聖な場所です。
結論から申し上げましょう。あの台の正式名称は「駒台(こまだい)」です。
シンプル極まりない名前ですが、その役割は将棋というゲームの根幹に関わります。チェスや囲碁にはない、将棋独自のルールである「持ち駒の再利用(打つ)」が存在するからこそ、この駒台が必要不可欠となるのです。
チェスでは取った駒は盤上から去り、二度と戻りません。しかし、将棋では「敵の駒を味方として再誕させる」ことができます。取った駒は「死んだ」のではなく、新たな使命を帯びて「待機」しているのです。そう考えると、駒台はさながら、戦士たちが次の出陣を静かに待つ「控えの間」のような場所と言えるでしょう。
正式な対局、特にタイトル戦などで使用される足付きの将棋盤には、必ずと言っていいほどこの駒台がセットで置かれます。材質や高さ、そして木目。すべてが主役である将棋盤を引き立て、かつ調和するように計算され尽くしているのです。
もしあなたがこれから本格的に将棋を始めようとしているなら、まずは将棋盤とセットで駒台の購入を検討することをお勧めします。駒台があるだけで、自宅のテーブルがたちまち「対局場」へと変わる魔法がかかるからです。
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高さ
駒台をよく観察してみると、ある一つの「決まり」に気づくはずです。それは、「将棋盤の盤面よりも、わずかに低く作られている」という点です。
なぜ、同じ高さではないのでしょうか?
そこには、物理的な理由と精神的な理由の両方が混在しているように思えてなりません。まず物理的な理由としては、対局者の袖(そで)が引っかかるのを防ぐためと言われています。和服であれ洋服であれ、盤上の駒を動かす際、腕は盤の横を通過します。もし駒台が盤より高かったり、同じ高さだったりすれば、袖が持ち駒に触れ、崩してしまう恐れがあります。
しかし、それ以上に日本的な美学を感じるのは、「主従関係」の表現です。あくまで主役は「盤上の戦い」であり、控えの兵士たちは一歩下がって戦況を見つめる。そんな謙譲の精神が、あの数センチの段差に込められているのではないでしょうか。
一般的には、盤面よりも1センチから2センチ程度低くなるように作られています。この絶妙な「下がり具合」こそが、対局者の視線を盤上に集中させ、かつ持ち駒の状況を自然に視界に入れるための黄金比なのです。
駒台は将棋盤にセットで付いてくる?
「将棋盤を買えば、当然駒台もついてくるのだろう」
そう思う方も多いかもしれませんが、実はこれはケースバイケースです。購入する盤のグレードや形態によって大きく異なります。
| 盤の種類 | 駒台の有無・傾向 | 備考 |
|---|---|---|
| 本格的な足付き盤 | 別売りの場合が多いが、高級セットでは付属することも。 | 盤と同じ木材(榧など)で揃えるのが通例。高さの調整が必要。 |
| 卓上盤(一枚板・接ぎ盤) | 基本は別売り。薄い板状の駒台を別途購入する。 | なくても対局は可能だが、あると格段に雰囲気が増す。 |
| 折りたたみ盤・マグネット盤 | 付属しないことがほとんど。 | カジュアルな対局用。持ち駒は盤の横のテーブル上に置くことが多い。 |
特に、最高級品とされる「榧(かや)」の足付き盤を購入する場合、駒台は「島桑(しまぐわ)」などの銘木を使って別途あつらえることが美とされています。盤と同じ素材で作ることもありますが、あえて異なる色の木材を使うことで、盤を引き立たせるという「見立て」の文化が存在するのです。
初心者が最初に手にするような入門セットであれば、簡易的な駒台が付属していることもあります。しかし、将棋の深みにハマり、より良い道具を求め始めると、将棋駒と同様に、駒台選びもまた一つの楽しみとなっていくのです。
プロの対局を見ていると、その道具の素晴らしさに目を奪われることがあります。ABEMA将棋チャンネルや囲碁将棋チャンネルで放送されるタイトル戦では、数百万円、時には数千万円の価値がある盤駒と共に、工芸品のような駒台が使用されています。次に観戦する際は、ぜひ「台」にも注目してみてください。
自作の作り方

市販のものも素晴らしいですが、DIYが得意な方であれば、自分だけの駒台を自作するのも一興です。自分の持っている将棋盤の高さに合わせて、ミリ単位で調整できるのが自作の最大のメリットです。
ここでは、簡易的ながらも風合いのある「卓上用駒台」の作り方のエッセンスをご紹介します。
1. 素材選び:木との対話
まずは木材選びです。ホームセンターで手に入る木材でも十分ですが、できれば少し硬めの木材を選ぶと、駒を置いた時の「音」が良くなります。ウォールナットやチェリー、あるいは日本の杉やヒノキも良いでしょう。木目の美しさは、そのまま対局の静寂に彩りを添えます。
2. 寸法の決定
標準的な駒台のサイズは、約12cm×12cm程度です。しかし、重要なのは「高さ」です。お手持ちの将棋盤の厚みを測り、それよりも5mm〜10mmほど低くなるように設計します。この「わずかな低さ」が、プロのような所作を生む鍵となります。
3. 切断と研磨
木材を正方形に切り出したら、最も重要な工程である「研磨(やすりがけ)」に入ります。紙やすりの番手を、粗いもの(#120)から細かいもの(#400〜#800)へと変えながら、ひたすら磨き上げます。駒は、対局者の指と同様に、非常に繊細なものです。ささくれがあっては駒を傷つけてしまいます。赤子の肌のように滑らかになるまで、無心で木を磨く時間は、まるで座禅を組んでいるかのような精神統一の時間となるでしょう。
4. 仕上げ:オイルか、蜜蝋か
最後に塗装です。ニスでテカテカにするよりも、亜麻仁油(アマニオイル)や蜜蝋ワックスを塗り込み、木そのものの質感を活かす「オイルフィニッシュ」をおすすめします。油を吸った木は濡れたような深みのある色に変わり、経年変化(エイジング)を楽しむことができます。
こうして完成した世界に一つだけの駒台。その上に、使い込まれた駒を置く。そして、棋書を開き、過去の名局を並べる。それは、至福のひとときとなるはずです。
もし、木工技術に自信がない、あるいは本格的な指導を受けたいという場合は、ココナラの指導対局・棋譜添削などで知り合った詳しい方にアドバイスを求めるのも一つの手かもしれません。将棋を愛する人々は、道具への愛着も深いことが多いのです。
将棋の台の名前が分かったら、盤駒を深掘り

「駒台」という脇役の名前と役割を知った今、あなたの目はすでに主役である「将棋盤」と「駒」へと向いていることでしょう。脇役がこれほど奥深いのであれば、主役にはどれほどの物語が隠されているのか。
ここからは、将棋道具の核心部、100年、200年と受け継がれることもある「盤」と「駒」の神秘に迫ります。ただの木の塊、ただの木のチップではない、そこに宿る精神性を紐解いていきましょう。
将棋盤
将棋盤。それは81マスの戦場であり、宇宙です。
本格的な将棋盤に使われる木材の王様は、なんと言っても「榧(かや)」です。榧の木は成長が遅く、盤として使える太さになるまでには300年以上の歳月が必要だと言われています。江戸時代、あるいはそれ以前から森の中で静かに呼吸をしてきた巨木が、職人の手によって盤へと姿を変えるのです。
榧が最高級とされる理由は、その「打ち味」と「香り」にあります。適度な弾力性があるため、駒を打ち付けた時に肩や肘への負担が少なく、長時間指しても疲れにくいのです。また、使い込むほどに飴色に変化し、歴史の重みを増していきます。
一方、より手に入りやすい素材として「桂(かつら)」や「新榧(しんかや・スプルース)」もあります。桂はやや硬めで、パチンという乾いた高い音が特徴です。新榧は木目が白く美しく、現代的な明るい部屋によく馴染みます。
盤を選ぶことは、共に時を過ごすパートナーを選ぶことにも似ています。あなたが盤に向かう時、盤もまたあなたを受け止めてくれるのです。
将棋の歴史や盤の変遷についてより深く知りたい方は、Kindleなどで専門書を探してみるのも良いでしょう。電子書籍なら、場所を取らずに多くの知識を持ち運べます。
足つき

本格的な将棋盤には、四本の足がついています。この足の形、よく見たことがありますか?
単なる棒状ではありません。八角形のような、それでいて優美な曲線を描く独特の形状をしています。この形は、植物の「クチナシの実」を模していると言われています。
なぜクチナシなのか。ここには、古人の洒落(しゃれ)と戒めが込められています。
「口無し」=「口出し無用」。
つまり、「対局中に第三者が助言をしたり、茶々を入れたりしてはいけない」という観戦者のマナーを、盤そのものが無言で訴えかけているのです。この意匠が定着したのは江戸時代と言われています。当時の人々もまた、今の私たちと同じように、横からの口出し(助言)に悩まされていたのかもしれません。
盤の裏の「ヘソ」の謎
足付き盤を裏返してみると、中央に四角い窪みがあることに気づくでしょう。これを「音受け」あるいは「ヘソ」と呼びます。
この窪みには、二つの役割があります。
- 音響効果:駒を打った時の音が、この窪みによって共鳴し、より良く響くようになるという説。
- 乾燥・ひび割れ防止:厚みのある木材は乾燥によって割れやすいため、あらかじめ中心部を削っておくことで、水分の放出を調整し、表面の割れを防ぐという実用的な理由。
そして、ここにも一つ、恐ろしい伝説があります。
かつて、対局において不正(イカサマ)をした者の首を刎ね、この窪みにその血を乗せて盤を逆さまにした、という血なまぐさい伝承です。「血溜まり」などと呼ばれることもあります。真偽の程は定かではありませんが、それほどまでに「将棋は命がけの真剣勝負である」という覚悟を、この窪みは象徴しているのです。
現代の私たちは、スマートフォンで気軽に将棋を楽しむことができます。ブックライブで将棋漫画を読んだり、DMM TVでアニメを見たりと、エンターテインメントとしての側面も強いですが、盤の裏を見るたびに、かつての勝負師たちの凄まじい気迫を思い出すことができます。
高級な将棋盤
高級な将棋盤の世界は、まさに「木目(もくめ)」の芸術です。同じ榧の木であっても、その切り出し方によって価値は天と地ほど変わります。
柾目(まさめ)と板目(いため)
最高級とされるのは「柾目(まさめ)」です。盤面に対して、年輪が垂直になるように切り出されたもので、盤の上には天から地へと流れるような、真っ直ぐで均一な線が並びます。特に「天地柾(てんちまさ)」と呼ばれる、盤の上面から底面まで垂直に木目が通っているものは、数百万円の価値がつくことも珍しくありません。整然とした柾目は、見る者の心を正し、雑念を払う効果があるとも言われます。
一方、「板目(いため)」は、タケノコのような山形の木目(木裏・木表)が現れます。こちらは力強く、野趣あふれる美しさがあります。柾目に比べれば安価ですが、自然の造形美という意味では、板目を好む愛好家も少なくありません。
もしあなたが将来、一生モノの盤を手に入れたいと願うなら、ぜひ「木目」をじっくりと眺めてみてください。そこには、その木が生きてきた数百年のドラマが刻まれています。歴史を知るために、多くの文献にあたるのも良いでしょう。Kindle Unlimitedなどを活用して、伝統工芸や木材に関する書籍を読み漁るのも、盤選びの審美眼を養う近道です。
駒

盤が戦場であるならば、駒はそこで命を燃やす「魂」そのものです。将棋駒、正式には「将棋の駒」と呼ばれるこの小さな木片には、日本の美意識が極限まで凝縮されています。
プロ棋士が対局で使用する駒は、単なる道具の域を超えています。あなたがもし、本物の「盛り上げ駒」を手に取る機会があれば、その感触に震えることでしょう。指に吸い付くような漆の感触、盤を叩く時の澄んだ音色。それらは、数ミクロンの世界で戦う職人たちの結晶です。
素材:黄楊(ツゲ)の物語
高級駒の素材として絶対的な地位にあるのが「本黄楊(ほんつげ)」、特に伊豆諸島の御蔵島(みくらじま)で採れる「御蔵島産本黄楊」です。
黄楊の木は、極めて緻密で硬く、それでいて加工性が良いという奇跡的なバランスを持っています。何よりも素晴らしいのは、使い込むほどに変化する「色艶」です。最初は淡いクリーム色をしていますが、長い年月を経て使い込まれると、透き通るような飴色へと変化します。これを「飴色(あめいろ)」と呼び、愛好家たちは自分の手で駒を育て上げることに無上の喜びを感じるのです。
製法の四段階:進化する芸術
将棋の駒は、その作り方によって大きく4つのランクに分かれます。これは単なる価格の違いではなく、文字の表現方法の違いです。
| 製法 | 特徴と魅力 | 使用層の目安 |
|---|---|---|
| 書き駒 (かきごま) | 木地に直接、漆やインクで文字を書いたもの。最も歴史が古く、素朴な味わいがある。安価なものから、プロの書家が揮毫した芸術品まで幅が広い。 | 入門〜中級者 |
| 彫り駒 (ほりごま) | 文字を彫刻刀で彫り、そこに漆を入れたもの。文字が窪んでいるのが特徴。普及品から高級品まで最も一般的。力強い彫り跡を楽しめる。 | 中級者〜有段者 |
| 彫り埋め駒 (ほりうめごま) | 彫った溝に漆を埋め込み、表面を平らに研ぎ出したもの。表面がフラットなため、指触りが滑らか。長年使っても漆が減りにくい実用性の高さがある。 | 有段者・指導者 |
| 盛り上げ駒 (もりあげごま) | 彫り埋め駒の状態から、さらに漆を重ねて文字を浮き上がらせた最高峰。文字そのものが立体的に輝く。プロのタイトル戦で使用されるのはこれ。至高の芸術品。 | プロ・収集家 |
特に「盛り上げ駒」の製作は、熟練の職人でさえ極度の集中力を要します。漆が乾く速度、湿度、そして筆の運び。すべてが完璧に調和した時、駒は単なる道具から「美術品」へと昇華します。その工程の複雑さと美しさは、天童市将棋資料館などの公式サイトで詳しく紹介されています。山形県天童市は将棋駒の生産量日本一を誇る聖地であり、その歴史を知ることは将棋への理解をより深めることにつながります。
書体の魔力
駒の魅力は「書体」にもあります。「錦旗(きんき)」「水無瀬(みなせ)」「巻菱湖(まきのりょうこ)」など、数多くの書体が存在します。力強い筆致、流れるような優雅さ、あるいは質実剛健な佇まい。
自分好みの書体を見つけることは、自分の将棋のスタイル(棋風)を見つけることに似ています。「攻め将棋だから力強い錦旗を」「受け将棋だから優雅な水無瀬を」。そんな風に、将棋駒を選ぶ過程そのものが、すでに将棋という遊びの一部なのです。
駒袋
対局が終わり、熱気を帯びた駒たちを休ませる場所。それが「駒袋」です。
多くの人は購入時の桐箱に駒を戻しますが、将棋指しの嗜みとして、美しい布で作られた駒袋に入れて持ち運ぶ文化があります。西陣織や金襴緞子(きんらんどんす)など、着物の帯のような豪華な生地で作られた駒袋は、それ自体が一つの工芸品です。
駒袋には、単なる収納以上の意味があります。袋の紐を解き、盤上に駒を「ガラガラ」と空ける瞬間。あれは、日常から非日常の戦場へと精神を切り替える儀式(スイッチ)なのです。逆に、対局後に駒を一つ一つ袋にしまう行為は、高ぶった感情を鎮め、相手への敬意と共に戦いを終わらせるための儀式と言えます。
丸い底のマチがついた巾着型が一般的ですが、最近では個性を主張する様々なデザインも登場しています。盤や駒が高価で手が出しにくい場合でも、駒袋なら数千円からこだわりの逸品を手に入れることができます。お気に入りの柄の駒袋を持つだけで、将棋道場や大会へ行く足取りが軽くなることでしょう。
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盤面の数え方・符号

将棋の道具を愛でるだけでなく、その上で繰り広げられるドラマを理解するためには、盤上の「住所」を知る必要があります。それが「符号(ふごう)」です。
プロの解説や棋書を読む際、「7六歩」「3四歩」といった暗号のような言葉が飛び交います。これは、81マスのどこにどの駒が動いたかを正確に記録するための座標システムです。
座標の仕組み:右手から数える
将棋盤のマス目は、右上を原点として数えます。
横の列を「筋(すじ)」と呼び、右から1、2、3……9とアラビア数字で数えます。
縦の段を「段(だん)」と呼び、上から一、二、三……九と漢数字で数えます。
つまり、盤面の右上隅は「1一(いちいち)」、左下隅は「9九(きゅうきゅう)」となります。このルールさえ覚えれば、数百年前の江戸時代の名人の対局であっても、現代の私たちが盤上で再現することができるのです。これは、音楽における楽譜と同じような、時空を超えた共通言語です。
この符号の読み方に慣れると、ABEMA将棋チャンネルなどの放送対局が劇的に面白くなります。解説者が「次は5五角ですね」と言った瞬間、頭の中でその手が再生され、プロと同じ視点で盤面を見つめることができるようになるからです。
さらに詳しく学びたい方は、日本将棋連盟の将棋の基礎知識ページなどで、図解を見ながら確認することをお勧めします。最初は戸惑うかもしれませんが、慣れてしまえば自転車に乗るようなもので、一生忘れることはありません。
私の見解・考察:静寂の中に「置く」という美学
ここまで、将棋の台の名前である「駒台」から始まり、盤や駒、そしてそれらを作り出す職人の技について深掘りしてきました。最後に、私自身がこの「道具たち」に対して抱いている、ささやかな考察を述べさせていただきます。
デジタル全盛の時代に、なぜ「木」を求めるのか?
現代において、将棋を指すだけならスマートフォン一つあれば事足ります。アプリを開けば一瞬で盤面が用意され、持ち駒は画面の端にデジタルデータとして整然と並びます。そこには重さもなければ、音もありません。効率的で、どこまでも無機質な世界です。
しかし、私はあえて問いたいのです。「私たちは、単に勝敗を決めるためだけに将棋を指しているのだろうか?」と。
私にとって、盤に向かう時間は、自分自身との対話の時間です。 ずっしりと重い駒を手に取り、指先でその木肌を感じる。駒台に置かれた「歩」一枚にも、かつて盤上で戦った記憶と、これから再投入される未来への予感が宿っています。
「パチリ」という駒音は、私の心臓の鼓動とシンクロし、乱れた呼吸を整えてくれます。あの音は、単なる衝突音ではありません。数百年の時を超えてきた木々が、私たちの指を通して奏でる「生命の音」なのだと思います。
「駒台」という境界線
特に「駒台」という存在には、日本独自の「余白の美」を感じずにはいられません。
チェスのように取った駒を排除するのではなく、将棋は「味方として迎え入れる」ゲームです。駒台は、その転換点となる場所。言わば、駒たちが過去(敵)から未来(味方)へと生まれ変わるための「揺りかご」のような役割を果たしているのではないでしょうか。
だからこそ、その台は盤面よりも少し低く、謙虚でなければならない。主役である盤上のドラマを邪魔せず、しかし、いつでも助けに行ける位置で静かに控えている。この絶妙な距離感と高さの設定に、日本人が大切にしてきた「慎み」や「控えめな献身」の精神が見て取れます。
道具を愛することは、文化を継承すること
高価な将棋盤や駒を購入することは、決して安い買い物ではありません。しかし、それは単なる「消費」ではなく、伝統工芸という「文化への投資」であり、職人たちの魂を次世代へと繋ぐ「バトン」を受け取る行為でもあります。
使い込まれた盤には、前の持ち主の思考の跡が残っています。そして、私たちがつけた小さな傷や、手油で深まった飴色は、やがて次の持ち主へと語り継がれていくことでしょう。
もしあなたが、画面の中だけの将棋に少し味気なさを感じているのなら。 あるいは、日々流れていく情報の濁流に疲れを感じているのなら。
ぜひ一度、本物の「木」に触れてみてください。 駒台に駒を置く、そのたった一つの所作が、あなたの日常に「静寂」という贅沢な時間をもたらしてくれるはずです。
将棋という宇宙は、盤上だけでなく、その傍らにある小さな台の上にまで、無限に広がっているのですから。
よくある質問Q&A

ここでは、将棋の台や道具に関して、初心者の方からよく寄せられる疑問に答えていきます。
Q. 駒台がないと対局してはいけないのですか?
A. いいえ、決してそんなことはありません。
駒台は「あると望ましい」ものですが、必須ではありません。駒台がない場合は、将棋盤の横(テーブルや畳の上)に、相手に見えやすいように並べておけばマナー違反にはなりません。ただし、持ち駒を隠したり、握り込んだままにするのは反則負けの対象になることもあるため、常に「公開する」ことを意識しましょう。
Q. 将棋盤のお手入れ方法は?水拭きしてもいいですか?
A. 絶対に水拭きは避けてください。
木製の将棋盤にとって、湿気は大敵です。水拭きをすると、水分を吸って膨張し、乾燥する際にひび割れの原因となったり、表面の線(目盛り)が消えてしまったりします。日常のお手入れは、柔らかい木綿の布(古いTシャツの切れ端などで十分です)で乾拭きをするだけで十分です。汚れがひどい場合でも、植物性の油を極少量つけた布で磨く程度に留めましょう。盤を育てるつもりで、優しく撫でてあげてください。
Q. 良い道具を使うと将棋は強くなりますか?
A. 直接的には強くなりませんが、精神的には確実に強くなります。
高い駒を使ったからといって、次の一手が見えるようになるわけではありません。しかし、良い道具は「座る姿勢」と「心構え」を変えます。「こんなに素晴らしい盤駒に向かうのだから、適当な手は指せない」という心地よい緊張感が、集中力を高め、結果として上達を早めることは往々にしてあります。形から入ることも、芸事においては立派な上達法の一つです。
Q. 勉強のために本を読みたいのですが、おすすめは?
A. 電子書籍の活用が現代のトレンドです。
定跡書や詰将棋の本は、盤駒を並べながら読むのが一番ですが、通勤中や隙間時間に読むなら電子書籍が最強です。Kindle端末やアプリを使えば、数百冊の棋書をポケットに入れて持ち運べます。また、Kindle Unlimitedなら、対象の将棋本が読み放題になるため、多読したい方にはコストパフォーマンスが抜群に良いでしょう。
まとめ:将棋の台の名前と道具の美。榧の香り、駒音、指先に宿る職人の魂

「将棋の台の名前」という、ほんの些細な疑問から始まったこの旅。私たちは、駒台から盤、駒、そしてそれらを作る職人たちの魂や、盤上の符号という宇宙までを巡ってきました。
たかが道具、されど道具。
将棋というゲームは、盤と駒さえあれば成立します。しかし、そこに「駒台」という控えの間があり、数百年を生きた「榧」の盤があり、職人が命を削って彫り上げた「黄楊」の駒があることで、その空間は単なるゲームの場から、日本の美学が息づく聖域へと変わります。
あなたが次に将棋を指すとき、あるいはプロの対局を観る・読むとき、ぜひ盤の横にそっと置かれた「駒台」に目を向けてみてください。そして、パチリと響く駒音の余韻に耳を澄ませてみてください。
そこには、勝負の勝ち負けだけではない、豊かで静謐な時間が流れているはずです。
さあ、知識の準備は整いました。
次は、あなた自身が盤に向かう番です。
まずは、おすすめの将棋盤の記事を参考に、あなたと共に時を刻む「生涯の友」を探しに行ってみませんか?

