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将棋で持ち時間がなくなったら?極限の心理戦とルールの全貌

将棋で持ち時間がなくなったら?極限の心理戦とルールの全貌

静寂に包まれた和室。聞こえるのは、パチリ、パチリという駒音と、対局者の衣擦れの音だけ。
盤上には81マスの宇宙が広がり、二人の棋士が魂を削り合っています。

しかし、そこにはもう一つ、見えない参加者がいます。
それは「時間」です。

将棋における時間は、単なる時計の針の動きではありません。それは棋士に残された「命」そのものであり、思考の深淵へと潜るための酸素ボンベでもあります。一手一手に注ぎ込まれる膨大な思考、数え切れないほどの分岐、そして決断。そのすべてが、限られた砂時計の砂が落ちきるまでのドラマなのです。

では、もしその砂がすべて落ちきってしまったら?
酸素ボンベが空になったダイバーは、海中でどう振る舞うべきなのでしょうか。

「将棋で持ち時間がなくなったらどうなるのか?」

この問いは、ルールの話であると同時に、極限状態における人間の心理と、一瞬の判断力が試されるスリリングな物語の入り口でもあります。プロ棋士が見せる「1分将棋」の凄絶な美しさ、ネット将棋で味わう「切れ負け」の無常さ、そして歴史に残る大長考のエピソード。

本記事では、将棋における「時間」のルールとそのドラマを、極限まで深掘りして解説します。あなたが次に盤に向かうとき、あるいはプロの対局を観るとき、時計の針が刻む一秒一秒が、これまで以上に重く、愛おしく感じられるはずです。

【本記事の信頼性】

本記事は、以下の公的機関および信頼できる情報源に基づき執筆されています。

この記事を書いた人
将棋沼の住人N

東京都出身・在住の20代将棋系Webライター
将棋歴:15年
棋力:将棋ウォーズ四段 / 将棋クエスト五段 / 詰めチャレ六段
得意戦法:中住まい
推し棋士:屋敷伸之九段

将棋で持ち時間がなくなったら?

将棋で持ち時間がなくなったら?極限の心理戦とルールの全貌

盤上の戦いが佳境を迎える頃、対局者の横に置かれた時計、あるいはタブレットの画面が赤く点滅し始めます。
持ち時間がゼロになる瞬間。それは終わりではなく、別の戦いの始まり、あるいは唐突な終焉を意味します。

将棋で持ち時間がなくなったらどうなる?時間切れ負け?

結論から申し上げますと、将棋で持ち時間がなくなった後の運命は、「その対局がどのようなルールで行われているか」によって天と地ほど異なります。

大きく分けて、二つの世界線が存在します。

1. 切れ負け(即、敗北の世界)

最も無慈悲で、残酷なルールです。
持ち時間が「0」になった瞬間、どんなに優勢であっても、たとえ次の1手で相手玉を詰ませる状態であっても、即座に「負け」となります。

これは主に、以下のシーンで見られます。

  • 将棋ウォーズや将棋クエストなどのネット将棋(一部ルールを除く)
  • 町道場での席主が決めたルール
  • アマチュアの将棋大会の予選など、進行スケジュールがタイトな場合

ネット将棋で「あと1秒あれば勝てたのに!」と枕を濡らした経験がある方も多いでしょう。ここでは時間は駒の損得以上に重い価値を持ちます。相手の時間を削るためにわざと指しにくい局面へ誘導する「時間攻め」も、立派な(そして恐ろしい)戦術となります。

2. 秒読み(極限の1分将棋の世界)

プロの公式戦や、多くのアマチュア大会の本戦などで採用されているのがこのルールです。
持ち時間を使い切っても、即負けにはなりません。その代わり、「1手につき〇〇秒未満」という極めて短い時間制限の中で指し続けなければならなくなります。

これを「秒読み」と呼びます。

一般的には「1手60秒未満(1分将棋)」が主流ですが、NHK杯のように「1手30秒」という超早指し棋戦もあります。秒読みに入ると、記録係(あるいは音声ガイド)が冷徹にカウントダウンを始めます。

「30秒、40秒、50秒、1、2、3……」

最後の一秒、「10(または60)」が読まれるまでに着手できなければ、その瞬間に時間切れ負けとなります。
プロ棋士の対局において、持ち時間を使い切ってからの戦いは、まさに綱渡り。読みの深さと直感の正確さがむき出しになる、最もスリリングな時間帯です。

持ち時間のルール

将棋で持ち時間がなくなったら?極限の心理戦とルールの全貌

持ち時間の減り方、つまり「時間の消費ルール」にも種類があることをご存知でしょうか?
同じ「持ち時間10分」でも、方式によって実際の対局時間は大きく変わります。ここでは代表的な3つの計測方式を、深掘りして解説します。

ストップウォッチ方式(1分未満切り捨て)

日本のプロ将棋界で伝統的に採用されてきた、最もポピュラーな方式です。
特徴は「分の単位でのみ時間を記録する」という点です。

例えば、あなたが長考して「3分50秒」考えたとします。記録係はこれを「3分」として記録するか、あるいは59秒までは切り捨てて計算する場合があります(正確には、記録係がストップウォッチで計測し、60秒経過するごとに持ち時間から1分を引くイメージです)。

極端な話、59秒考えて指すことを繰り返せば、理論上は持ち時間が全く減りません。
この「隠された時間」を有効活用できるかどうかが、ベテラン棋士の腕の見せ所でもあります。プロの対局で、夕食休憩前などに時間を調整して指す光景が見られるのも、この方式の妙味です。

チェスクロック方式(秒単位消費)

近年増えているのが、このチェスクロック方式です。
デジタル時計を使用し、「1秒単位」で持ち時間が正確に減っていきます。

5秒考えれば5秒減り、30秒考えれば30秒減る。非常にシンプルで公平ですが、ストップウォッチ方式のような「時間のマジック」は使えません。持ち時間は水のようにサラサラと流れ落ちていきます。

最近の若手棋士や奨励会(プロ養成機関)、そして多くのアマチュア大会ではこの方式が主流になりつつあります。この方式では、時間管理のシビアさがより一層求められます。

正確な時間管理ができる対局時計(チェスクロック)は、日々の練習においても必須のアイテムと言えるでしょう。

フィッシャールール(加算方式)

チェス界の伝説的王者、ボビー・フィッシャーが考案した画期的なルールです。
将棋界では「ABEMAトーナメント」などで採用され、そのスピーディーな展開が話題を呼びました。

基本ルールは「持ち時間5分 + 1手指すごとに5秒加算」といった形式です。
早く指せば指すほど持ち時間が増えていくため、序盤の早指しで時間を「貯金」し、終盤の難所でその貯金を使うという戦略が可能になります。

このルールは観る側にとっても非常にエキサイティングです。残り数秒まで追い詰められていた棋士が、猛烈な早指しで時間を回復させ、逆転勝ちを収めるドラマは、フィッシャールールならではの興奮です。

このスリリングな対局を体験したい方は、ABEMA将棋チャンネルで実際の対局を観戦してみることを強くおすすめします。現代将棋のスピード感を肌で感じることができるでしょう。

持ち時間の使い方

将棋で持ち時間がなくなったら?極限の心理戦とルールの全貌

「将棋は時間の使い方が9割」と言っても過言ではありません。
持ち時間がなくなったらどうなるかを知る前に、いかにして持ち時間を使い切るか、その美学を知る必要があります。

序盤・中盤・終盤、時間の価値は変わる

将棋の進行において、時間の価値は一定ではありません。

  • 序盤:定跡(セオリー)通りに進むことが多く、ここでは時間を節約するのが定石です。ここで時間を使いすぎると、終盤のねじり合いで息切れしてしまいます。
  • 中盤:戦いの火蓋が切られ、構想力が問われる場面。ここで「勝負手」を放つために、多くの棋士が長考に沈みます。1手に1時間、2時間とかけることも珍しくありません。
  • 終盤:詰むや詰まざるやの最終決戦。ここでは「読みの正確さ」が必要ですが、皮肉なことに、この時点で多くの棋士は持ち時間を使い果たしています。

プロ棋士の中には、「終盤は1分将棋でも間違えない自信があるから、序中盤で全ての時間を使い切る」という豪胆なスタイルを持つ人もいます。一方で、「終盤に必ず1時間を残す」という慎重派もいます。
時間の使い方は、その棋士の性格や人生観そのものを映し出す鏡なのです。

時間攻めという戦術

相手の思考時間を奪うのも、高等な戦術の一つです。
例えば、相手が長考している最中に、自分が席を立ったり、あえてすぐに指し返したりすることで、相手のリズムを崩す(もちろんマナーの範囲内で)。

また、複雑で難解な局面へと誘導し、相手に時間を使わせる「複雑化」のテクニックも存在します。
相手が持ち時間を使い果たし、秒読みに追われて焦り、悪手を指した瞬間。それは「時間攻め」が功を奏した瞬間でもあります。

こうした駆け引きを学ぶには、定跡書だけでなく、プロの実戦譜を並べたり、心理戦を描いた将棋漫画や小説を読むのも良い勉強になります。

また、もしあなたがKindle端末をお持ちなら、Kindleで数多くの将棋本をいつでも持ち歩き、隙間時間に「時間の使い方」や「定跡」を学ぶことができます。

持ち時間と秒読み

将棋で持ち時間がなくなったら?極限の心理戦とルールの全貌

持ち時間がゼロになり、秒読みが始まると、対局室の空気は一変します。
それはまるで、穏やかな湖面が突然、嵐の海へと変わるような劇的な変化です。

1分将棋の恐怖と美学

「負けました」
その言葉を発するまで、あるいは勝利を掴むまで、もう止まることは許されません。

1分将棋(1手60秒未満)の世界では、直感が全てを支配します。
人間の脳は、極限のプレッシャーの中で、論理を超えたひらめきを生み出すことがあります。羽生善治九段の「羽生マジック」と呼ばれる伝説的な逆転手の多くは、秒読みに追われる中で放たれました。

しかし、恐怖もまた隣り合わせです。
99手目まで完璧に指していたとしても、秒読みに追われて指した100手目がたった一つの悪手であれば、それまでの数時間の努力は水泡に帰します。
「一手のミスが命取り」という言葉が、物理的な重みを持ってのしかかるのです。

秒読み係の声、駒音、緊迫感

秒読みに入った対局者の仕草は、観る者の心を揺さぶります。

  • 扇子を激しく開閉する音。
  • 前傾姿勢になり、盤面に顔が触れるほど近づく姿。
  • 駒台から駒を拾い上げ、指が震えながらも盤に打ち付ける、パチン!という乾いた音。

記録係の「30秒……40秒……50秒……」という声は、死刑執行へのカウントダウンのようにも、あるいは栄光へのファンファーレのようにも聞こえます。

「6、7、8、9……」

ギリギリで指し手が放たれた瞬間、対局者は深く息を吐き、再び60秒の猶予を得ます。
この断続的な緊張と緩和の繰り返しこそが、将棋観戦の醍醐味の一つと言えるでしょう。

自宅で将棋を指す際も、この緊張感を味わいたいなら、本格的な将棋盤と駒を用意し、スマホのアプリではなく、実際の駒音を響かせてみてください。デジタルの画面では決して味わえない「重み」を感じることができるはずです。

将棋で持ち時間がなくなったら?持ち時間を深掘り

将棋で持ち時間がなくなったら?極限の心理戦とルールの全貌

ここまではルールの側面から持ち時間を見てきましたが、ここからは少し視点を変えて、将棋界における「時間」のデータを深掘りしていきましょう。
プロ棋士たちは一体どれくらいの時間を戦い続けているのでしょうか。

持ち時間一覧

プロの公式戦(棋戦)には、それぞれ異なる持ち時間が設定されています。
主な棋戦の持ち時間を以下の表にまとめました。これを見れば、将棋がいかに「時間の幅」が広い競技であるかが分かります。

棋戦名持ち時間秒読み特徴
名人戦 七番勝負各9時間1分2日制。将棋界で最も長い持ち時間。
竜王戦 七番勝負各8時間1分2日制。最高賞金額を誇る棋戦。
順位戦 (A級など)各6時間1分「将棋界の一番長い日」と呼ばれる最終局は深夜・早朝まで及ぶ。
王座戦 五番勝負各5時間1分1日制のタイトル戦としては標準的な長さ。
NHK杯各10分30秒テレビ放送用の早指し棋戦。考慮時間(1分×10回)あり。
銀河戦各15分30秒CS放送等の早指し棋戦。考慮時間あり。
ABEMAトーナメント各5分+5秒/手フィッシャールールを採用した超早指し団体戦。

名人戦の「持ち時間9時間」は、朝の9時に始まり、夜に中断して翌日の朝9時から再開、決着は2日目の夜(時には深夜)になるという、まさに死闘です。

一方で、NHK杯や銀河戦のような早指し棋戦は、スピーディーな決断力が求められます。
これらの対局を観戦する際は、持ち時間の違いによる棋士の戦い方の変化にも注目してみてください。囲碁将棋チャンネルなどの専門放送局では、こうした多様な棋戦をじっくり楽しむことができます。

最長持ち時間

将棋で持ち時間がなくなったら?極限の心理戦とルールの全貌

現代の名人戦の9時間でも十分に長いと感じるかもしれませんが、将棋の歴史を紐解くと、さらに桁外れな「時間」が存在しました。

かつては15時間、そして無制限

1930年代から40年代にかけての初期の名人戦では、持ち時間がなんと「各15時間」(3日制)で行われていた記録があります。両者合わせて30時間。食事や睡眠を含めると、一局に数日を費やすのが当たり前でした。

さらに遡れば、持ち時間の制限そのものがない「無制限」の時代もありました。
最も有名なのは、1937年に行われた「南禅寺の決戦(木村義雄八段 vs 阪田三吉)」。この対局は持ち時間30時間(!)という信じられない設定で行われ、1週間近くかけて指し継がれました。

1手にかける最長記録

「長考に好手なし」という格言がありますが、プロ棋士は時に、たった1手に魂を込めて数時間考え続けます。

公式戦における1手の長考記録として知られているのが、2005年の順位戦、青野照市九段 vs 堀口一史座七段戦における、堀口七段の「5時間24分」です。
昼食休憩を挟んでひたすら考え続け、夕方になってようやく指されたその一手。しかし、局後の感想で堀口七段は「どう考えても負けだと思っていた」と語ったといいます。負けを悟りながらも、なお可能性を探り続けた5時間半。それは棋士の執念そのものです。

こうした歴史的対局や、棋士たちの逸話を知るには、数多くの棋書(将棋の本)が素晴らしい水先案内人となってくれます。

特に、歴史的な名局の解説や棋士のエッセイなどは、Kindle Unlimitedで読み放題対象になっていることも多く、月額料金だけで将棋の奥深い歴史に触れることができます。

持ち時間は長すぎる?

将棋で持ち時間がなくなったら?極限の心理戦とルールの全貌

「9時間も考えて、何をしているのか?」

現代の「タイムパフォーマンス(タイパ)」を重視する社会において、将棋の長い持ち時間は、時に異質に映るかもしれません。YouTube動画を倍速で視聴し、結論だけを急ぐ現代人にとって、盤の前で微動だにせず1時間も2時間も沈黙する棋士の姿は、理解の範疇を超えているようにも思えます。

しかし、この「長さ」にこそ、人間が挑む知的格闘技の真髄が隠されています。

AIには描けない「思考の足跡」

現代最強の将棋AIは、1秒間に数億手という圧倒的な計算量で、瞬時に最善手を弾き出します。もし「正解」を知るだけなら、もはや人間は不要かもしれません。

けれど、私たちがプロ棋士の対局に心を奪われるのは、それが「正解だから」ではありません。人間という不完全な存在が、脳の血管が焼き切れるほどの負荷をかけ、迷い、苦しみ、恐怖と戦いながら、泥臭く「最善」を模索するプロセスそのものに感動するからです。

長い持ち時間は、そのドラマを描くためのキャンバスです。長考の末に放たれた一手が、解説者の予想を裏切る絶妙手だった時のカタルシス。あるいは、数時間の熟考の末にまさかの大悪手を指してしまった時の、人間味あふれる悲哀。それらはすべて、時間が醸成した芸術作品なのです。

現代における「贅沢」な時間

スマホの通知に追われ、常に何かに急かされている私たちにとって、外部の情報をすべて遮断し、ただ目の前の盤面だけに没頭する時間は、ある種、究極の「贅沢」と言えるかもしれません。

もしあなたが日常の喧騒に疲れたなら、週末に将棋盤を広げ、一手一手に時間をかけて向き合ってみてください。そこには、デジタルデトックスとも呼べる、静謐で濃密な時間が流れています。

持ち時間中のトイレ

将棋で持ち時間がなくなったら?極限の心理戦とルールの全貌

長時間に及ぶ対局において、避けて通れないのが生理現象です。
数時間、あるいは朝から深夜まで続く対局中、棋士たちはいつトイレに行っているのでしょうか?

「自分の時間」を削って行くのが鉄則

対局中、トイレのために席を立つ(離席する)ことは認められています。しかし、時計は止まりません。
つまり、トイレに行っている間も、無情に自分の持ち時間は減り続けるのです。

そのため、基本的には「自分の手番で、かつ持ち時間に余裕がある時」に行くのがセオリーです。相手の手番中に行くこともルール上は禁止されていませんが、自分がいない間に相手が指した場合、戻ってきてすぐに時間を消費し始めることになるため、あまり得策ではありません(マナーの観点からも、相手の思考を阻害しないよう配慮が必要です)。

離席中の悲劇とリフレッシュ

もし、トイレに行っている間に持ち時間がなくなったら?
答えはシンプル。「時間切れ負け」です。

想像してみてください。個室の中で用を足している最中に、遠くで秒読みの声が聞こえ、あるいは時計のアラームが鳴り響く瞬間を。実際にそこまでの悲劇は稀ですが、トイレから戻ってきたら秒読みギリギリで、慌てて着席し、息を整える間もなく指さなければならない……というシーンは、プロの対局でも時折見受けられます。

一方で、トイレは重要な「作戦タイム」でもあります。
対局室は常に相手の視線と張り詰めた空気に晒されていますが、トイレの個室は唯一、完全に一人になれる空間です。そこで鏡に向かって自分を鼓舞したり、冷たい水で顔を洗って熱くなった脳を冷却したり。あるいは、盤面から物理的に離れることで、煮詰まっていた思考がクリアになり、戻ってきた瞬間に妙手が見えることもあります。

持ち時間中の食事

将棋で持ち時間がなくなったら?極限の心理戦とルールの全貌

「将棋めし」という言葉が定着したように、対局中の食事は将棋ファンにとって大きな関心事の一つです。
脳のエネルギー消費量は凄まじく、激しい対局では体重が数キロ落ちるとも言われます。棋士にとって食事は、単なる楽しみではなく、思考を持続させるための重要な「燃料補給」です。

何を食べるかも心理戦

タイトル戦などでは、対局者におやつや食事が提供されますが、ここにも駆け引きが存在します。

  • 消化の良さを重視: 満腹になりすぎて眠気が襲ってくるのを防ぐため、あえて軽めの麺類(うどんや蕎麦)を選ぶ棋士。
  • 験担ぎ(げんかつぎ): 「カツ丼(勝つ)」や「うな重(精をつける)」など、勝負メシを決めている棋士。
  • 相手に合わせる: 相手と同じメニューを頼むことで、「相手の方が良いものを食べているのではないか?」という余計な雑念を消す戦術(かつての将棋界の巨匠・大山康晴十五世名人が有名です)。

食事の注文は、対局開始前や休憩時間に行われます。そのメニューがSNSで速報され、ファンが同じ店に行列を作る現象は、もはや現代将棋界の風物詩です。

こうした「将棋めし」の世界をより深く知りたい方は、BookLive!BOOK☆WALKERなどの電子書籍ストアで、将棋の食事をテーマにしたグルメ漫画を探してみるのも一興です。棋士たちが何を考えながら箸を動かしているのか、その心理描写に思わず喉が鳴ることでしょう。

おやつタイムの癒やし

午後のおやつ(主にタイトル戦)も見逃せません。
フルーツの盛り合わせや可愛らしいケーキ、和菓子など、盤上の殺伐とした雰囲気とは対照的なスイーツが登場します。

深刻な表情で盤面を見つめていた棋士が、一口ケーキを頬張った瞬間に見せる、ふとした人間らしい表情。
そんなギャップ萌えを楽しめるのも、ABEMAなどの映像中継ならではの醍醐味です。

また、食事休憩のない短時間の対局や、夜食の時間帯には、コンビニのおにぎりやチョコレートで栄養補給をすることもあります。あなたも将棋観戦のお供に、棋士と同じスイーツを用意してみてはいかがでしょうか。

私の見解:不完全さを受け入れる勇気

なぜ、将棋には「持ち時間」があるのでしょうか。
もし時間が無限にあれば、私たちはいつまでも完璧な手を追い求め、永遠に指すことができないかもしれません。

私はこう考えます。
持ち時間とは、「不完全さを受け入れるための儀式」であると。

人生もまた、時間制限のあるゲームです。就職、結婚、日々の選択。十分な情報を集め、100%正解だと確信できるまで考え続ける時間は、私たちには与えられていません。どこかのタイミングで、「ええい、ままよ」と決断し、駒を進めなければならない。たとえそれが、後で振り返れば悪手だったとしても。

秒読みに追われて指した震える一手が、意外な勝機を生むこともあれば、敗着になることもある。
それでも、時計の針が止まる前に、自分の意志で未来を選び取ったという事実。
それこそが、私たちが将棋というゲームから受け取る、最も尊い教訓なのかもしれません。

時間が切れる恐怖と戦いながら、それでも私たちは今日、盤に向かうのです。

よくある質問Q&A

将棋で持ち時間がなくなったら?極限の心理戦とルールの全貌

ここでは、持ち時間や対局中のトラブルに関する、素朴かつディープな疑問にお答えします。

Q. トイレに行っている間に時間が切れたらどうなりますか?

残念ながら、その瞬間に「時間切れ負け」となります。
ルール上、対局者が席にいるかどうかに関わらず、時計は進み続けます。トイレや食事で離席している間に時間が尽きれば、戻ってきたときには勝負が終わっていることになります。

Q. 秒読みで記録係が噛んだり、言い間違えたりしたら?

人間が行う以上、言い間違いは起こり得ます。
しかし、基本的には時計の進行が優先されます。記録係が「30秒、あ、いや40秒」と言い直している間も時間は進んでいます。プロの記録係(奨励会員)は訓練を受けていますが、万が一トラブルになった場合は、立会人の判断を仰ぐことになります。

ちなみに、秒読みの声が聞き取りにくかったとしても、「え?」と聞き返している余裕はありません。棋士は記録係の呼吸やリズムも感じ取って指しています。

Q. 「待った」はできますか?

絶対にできません。
将棋において、指した駒から手が離れた瞬間、その着手は確定します。「今のなし!」は通用しません。これは持ち時間がある状態でも、秒読みでも同じです。たとえそれがどんなに酷い悪手であっても、指した手は取り消せない。これが将棋の厳しさであり、美しさでもあります。

Q. 相手が対局中に寝てしまったら?

寝ること自体は反則ではありません。
持ち時間がある限り、目をつぶって考えようが、実際に寝てしまおうが自由です。過去には、伝説の棋士が対局中にいびきをかいて熟睡し、相手が「これは高等な罠に違いない」と警戒して長考してしまった、という逸話も残されています(真偽のほどは定かではありませんが)。
ただし、自分の手番で寝てしまい、そのまま持ち時間を使い切って秒読みで目覚めなかった場合は、当然ながら時間切れ負けとなります。

Q. 扇子で音を立てるのはマナー違反?

パチパチと扇子を鳴らす音は、思考のリズムを整えるためのものとして、ある程度は許容されています。
しかし、あまりにも頻繁だったり、相手を威嚇するような大きな音だったりする場合は、マナー違反として注意されることがあります。あくまで「心地よいリズム」の範囲内であることが大切です。
自分用の扇子を持つことは、棋士気分を味わう第一歩としておすすめです。

Q. ネット将棋で相手が接続切れでいなくなったら?

多くのアプリでは、一定時間(例えば3分など)再接続がなければ、接続切れ負けとなります。
ただし、切断された側としては非常に後味が悪いものです。ネット回線の安定した環境で指すことも、現代将棋における重要な「準備」の一つです。

まとめ:将棋で持ち時間がなくなったら?秒読みに咲く刹那の美学

将棋で持ち時間がなくなったら?極限の心理戦とルールの全貌

将棋で持ち時間がなくなったらどうなるか。
それは単なる「負け」や「秒読み」というルールの話にとどまりません。

持ち時間が尽きたその先には、人間の剥き出しの精神力が試される、極限の世界が広がっています。
考えることを放棄せず、最後の一秒まで最善を追い求める棋士たちの姿は、私たちに「時間の尊さ」と「決断の重み」を教えてくれます。

人生という名の持ち時間は、誰にも平等に減っていきます。
「待った」のきかない一度きりの勝負の中で、あなたなら次の一手をどう指しますか?

今度、プロの対局を観る時、あるいは自分で将棋を指す時は、ぜひ盤の横にある時計にも注目してみてください。
数字が減っていくその向こう側に、これまで見えなかったドラマチックな物語が見えてくるはずです。