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将棋の手数は何通り?全宇宙の原子より多い「10の220乗」の正体

将棋の手数は何通り?全パターンは?平均候補手は?

盤上の宇宙、あるいは9×9のマス目に広がる無限の荒野。

私たちは将棋というゲームを前にするとき、無意識のうちに「深淵」を覗き込んでいます。たった一枚の歩兵を突くその指先が、銀河の星々の数さえも凌駕する可能性の分岐点に触れていることを、あなたは想像したことがあるでしょうか。

「将棋の手数は何通りあるのか?」

この問いは、単なる数学的なパズルではありません。それは、人間が一生をかけても決して辿り着けない「神の領域」への畏敬の念であり、有限の命を持つ私たちが無限に挑むという、ある種のロマンチシズムを含んでいます。

本記事では、将棋という遊戯が内包する天文学的な数字の正体に迫ります。10の220乗という数字が意味する絶望的なまでの広大さと、その中で棋士たちが紡ぎ出す「最善の一手」の尊さ。そして、プロ棋士たちが盤上で繰り広げてきた極限の記録たち。

珈琲でも飲みながら、あるいは静かな夜のひとときに、この果てしない数字の旅へとお付き合いください。読み終えたとき、盤上の景色が少し違って見えるかもしれません。

【本記事の信頼性】
本記事は、以下の公的機関や権威あるデータを基に、将棋の複雑性や記録について執筆されています。

この記事を書いた人
将棋沼の住人N

東京都出身・在住の20代将棋系Webライター
将棋歴:15年
棋力:将棋ウォーズ四段 / 将棋クエスト五段 / 詰めチャレ六段
得意戦法:中住まい
推し棋士:屋敷伸之九段

将棋の手数は何通り?

将棋の手数は何通り?全パターンは?平均候補手は?

将棋盤を挟んで向かい合う二人の人間。静寂の中に響く駒音。その背後には、目に見えない巨大な樹形図が広がっています。

「将棋の全パターン」を知りたいと思ったとき、私たちはまず、その数字のあまりの巨大さに言葉を失います。それは、スーパーコンピューターが何億年計算しても弾き出せない、永遠に近い数字なのです。

将棋の手数、あるいは局面の数。これを正確に「数える」ことは、現代の科学をもってしても不可能です。しかし、数学者や情報科学者たちの試算によって、その「桁数」だけは判明しています。

その数字こそが、「10の220乗」です。

全パターンで10の220乗?

将棋のゲームとしての複雑さを表す指標として、よく引用されるのが「ゲーム木の複雑性(Game tree complexity)」です。これは、初期局面から終局まで、あり得るすべての手順を網羅したときの「葉(末端)」の総数に近い概念です。

将棋におけるこの数値は、およそ10の220乗から10の226乗と言われています。

数字だけを見てもピンとこないかもしれません。ここで、少し想像力を働かせてみましょう。「10の220乗」という数字を書き下すと、こうなります。

100,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000…(さらに0が140個以上続く)

気が遠くなるような0の羅列。これが、将棋というゲームが秘めている「物語の総数」です。

この数字は、松原仁氏(公立はこだて未来大学教授・人工知能研究者)らの研究や、情報理論の始祖クロード・シャノンがチェスで提唱した「シャノン数」の概念を将棋に応用した試算に基づいています。

なぜこれほどまでに膨れ上がるのでしょうか。それは将棋特有のルール、すなわち「持ち駒の再利用(再打)」に起因します。

チェスの場合、取られた駒は盤上から永久に去ります。戦力が減れば減るほど、選択肢は狭まっていきます。しかし、将棋は違います。取った駒は「持ち駒」として手元に残り、いつでも、盤上の空いている任意のマスに打ち込むことができます。

盤上が更地になればなるほど、持ち駒を打てる場所は増える。終盤になっても選択肢が爆発的に増え続ける。この「不死鳥のような再帰性」こそが、将棋の複雑さを天文学的なレベルへと押し上げているのです。

もし、あなたが「将棋の全パターンを紙に書き出そう」と思ったなら、今のうちに諦めることをお勧めします。その紙の厚さは、宇宙の果てを突き破ってしまうでしょうから。

この複雑さを理解するための良書を探しているなら、Kindleでゲーム理論や人工知能に関する書籍を検索してみるのも良いでしょう。電子書籍なら、場所を取らずに知の深淵に触れることができます。

10の220乗はいくつ?無限?

「10の220乗」という数字の異常さを、さらに具体的な比較で掘り下げてみましょう。

私たちの住むこの宇宙。観測可能な宇宙に存在する「全原子の数」をご存知でしょうか?

星も、惑星も、私たち自身の体も、空気も、すべて原子でできています。そのすべての原子をかき集めて数えたとしても、その数は推定で「10の80乗」個程度だと言われています。

対象推定される数(桁数)
地球上の砂粒の数約 10の21乗
観測可能な宇宙の全原子数約 10の80乗
将棋のゲーム木の複雑性約 10の220乗
囲碁のゲーム木の複雑性約 10の360乗

いかがでしょうか。全宇宙の原子の数を、さらに「10の140乗」倍して初めて将棋の全パターン数に届くのです。

これは実質的に「無限」と呼んで差し支えありません。

人間が生まれてから死ぬまで、不眠不休で1秒に1局の将棋を指し続けたとしても、この膨大な樹海の中の、ほんの一握りの砂粒にも触れることはできません。私たちが日々指している将棋の一局一局は、人類の歴史上、過去にも未来にも二度と現れない「奇跡の配置」である可能性が極めて高いのです。

藤井聡太竜王・名人が指す一手も、あなたが指す一手も、確率論的に言えば「宇宙で初めて現れた局面」かもしれません。そう考えると、盤上の駒音が少し神聖なものに聞こえてきませんか?

将棋の奥深さを知るには、実際にプロの対局を見てみるのが一番です。ABEMA将棋チャンネルでは、この無限の海に挑む棋士たちの熱戦をリアルタイムで目撃することができます。

平均候補手は何通り?

さて、全パターンの話があまりに壮大すぎたので、もう少し「手元」の話に戻しましょう。対局中、ある局面で「次に指せる手(合法手)」は平均してどれくらいあるのでしょうか。

一般的に、将棋における平均的な合法手の数は「約80通り」と言われています。

これは、他のボードゲームと比較すると驚異的な多さです。

  • チェス:平均約35通り
  • 将棋:平均約80通り
  • 囲碁:平均約200〜250通り

「えっ、囲碁の方がずっと多いじゃないか」と思われたかもしれません。確かに、盤面の広さ(19路盤)と「どこにでも打てる」というルール上、囲碁の選択肢は桁違いに多いです。

しかし、将棋の「80通り」には、特筆すべき「質の高さ」「厄介さ」があります。

チェスの場合、序盤は選択肢が多くても、終盤に向けて駒が減るにつれて選択肢は収束していきます。しかし将棋は、先述の通り「持ち駒」のルールがあるため、終盤の緊迫した場面でも、選択肢が減るどころか増えることが多々あります。

例えば、持ち駒に「歩」が3枚、「金」が1枚あるとします。盤上の空いているマスのほとんどに、これらの駒を打つことができるのです。もちろん、その99%は「打っても意味のない手(無駄手)」かもしれません。しかし、コンピューターや人間が「正解」を探す際には、その無駄手も含めた「平均80通り」の中から、たった一つの正解を見つけ出さなければなりません。

この「80通り」の分岐が、平均して110手〜120手ほど続くのです。

80 × 80 × 80 … これを100回以上繰り返す。この掛け算の連鎖が、AI(人工知能)にとっても長らくの壁となっていました。かつて「コンピューターが将棋でプロに勝つのは21世紀中には無理」と言われた理由の一つが、この平均候補手の多さによる計算量の爆発だったのです。

今やAIは人間を超えましたが、それでも将棋の完全解明(すべての局面の結論が出ること)には至っていません。それほどまでに、平均80通りの分岐路は深く、複雑なのです。

もし、あなたが強くなりたいと願うなら、この膨大な候補手の中から「良手」を絞り込む感覚を養う必要があります。ココナラの指導対局・棋譜添削を利用して、プロや高段者に自分の思考過程をチェックしてもらうのも、この迷宮を歩くための賢いコンパスとなるでしょう。

詰将棋は何通りある?

将棋の中でも、特に「王様を詰ます」ことに特化したパズル、それが「詰将棋」です。

「詰将棋のパターンは何通りあるのか?」という問いもまた、深遠です。詰将棋は「攻め方は王手の連続」「玉方は最善の逃げ」という厳しい制約があるため、本将棋(通常の対局)に比べれば、探索範囲は限定されます。

しかし、それでもその数は無限に近いと言えます。

江戸時代から続く「図式(詰将棋作品)」の世界では、伊藤宗看や伊藤看寿といった天才たちが、数々の名作を残してきました。彼らが作り出した作品は、限られた盤面と駒の中で表現された芸術です。

  • 3手詰、5手詰:初心者向けですが、これだけでも数万、数億のパターンが作成可能です。
  • 長手数詰将棋:数百手、数千手にかかる作品も存在します。

詰将棋は、本将棋という巨大な宇宙の中に浮かぶ、精緻に磨き上げられた宝石のようなものです。一つ一つの作品が、作者によって意図的に切り取られた「美の結晶」なのです。

多くの詰将棋本はKindle Unlimitedで読み放題の対象になっています。月額料金だけで数千問の詰将棋に挑戦できるため、棋力向上を目指す方にとっては、まさに「精神と時の部屋」のような環境を手に入れることができます。

将棋の手数は何通り?手数のあれこれ

将棋の手数は何通り?全パターンは?平均候補手は?

ここからは、天文学的な数字の世界から少し降りて、人間ドラマが詰まった「記録」の世界へ足を踏み入れましょう。

プロ棋士たちが盤上で削り出した血と汗の結晶。極限状態で生まれた「最長記録」や、一瞬の隙が生んだ「最短記録」。数字の向こう側に見える、棋士たちの息遣いを感じてください。

手数の数え方

そもそも、将棋の「手数」はどのように数えるのでしょうか。チェスや囲碁を知っている方なら、少し混乱するかもしれません。

  • チェスの場合:白と黒がそれぞれ1回ずつ指して「1ターン(1手)」と数えます。
  • 将棋の場合:誰かが駒を動かすたびに「1手」と数えます。

つまり、
先手が指す(1手目)
→ 後手が指す(2手目)
→ 先手が指す(3手目)…

というようにカウントします。ですので、将棋の棋譜は通常「100手」や「120手」といった数字になります。チェス流に言えば「50ターン」や「60ターン」ということになりますね。

この数え方の違いは、日本人の「間(ま)」の感覚や、双方向的な対話としての対局観を表しているのかもしれません。片方が動けば、局面は変わる。その一つ一つの変化を等しく「一手」として尊重する文化がそこにはあります。

プロの最長手数

将棋の手数は何通り?全パターンは?平均候補手は?

プロの公式戦において、最も長く続いた対局は何手だったのでしょうか。

通常、プロの対局は100手から120手程度で決着がつきます。しかし、互いに譲らず、互いの玉が入玉(敵陣に入ること)し、絶対に詰まない状態「持将棋(じしょうぎ)」模様になったとき、手数は異次元の伸びを見せます。

記録に残る最長の公式戦(入玉による持将棋成立局を含む)は、以下の対局です。

【歴代最長手数記録】420手

  • 対局日:2018年2月27日〜28日
  • 棋戦:第31期竜王戦6組ランキング戦
  • 対局者:牧野光則 五段 vs 中尾敏之 五段(段位は当時)
  • 結果:持将棋(引き分け)

420手。

通常の対局の4倍近い長さです。夜戦を経て、日付が変わっても指し続けられたこの対局。盤上の駒は互いの陣地に殺到し、捕まえることのできない王様が戦場を彷徨い続けました。

将棋には「持将棋」というルールがあります。互いの玉が敵陣に入り、詰ます見込みがなくなった場合、駒の点数(大駒5点、小駒1点)を計算し、双方が24点以上あれば引き分けとなります。

この対局では、互いに点数を確保しつつ、相手の隙を伺い続け、結果として420手まで及びました。対局終了時の棋士たちの疲労は、想像を絶するものだったでしょう。

ちなみに、引き分け(持将棋)にならずに決着がついた対局(勝敗がついた対局)としての最長記録は、昭和の名局として語り継がれる以下の対局が有名です。

  • 1969年(昭和44年) 第23期順位戦:加藤一二三 八段 vs 中原誠 棋聖(当時)
  • 手数:377手(中原勝ち)

「神武以来の天才」と呼ばれた加藤一二三と、「棋界の太陽」中原誠。若き日のレジェンド二人が演じた死闘です。377手もの間、一度も引き分けにならず、最後に勝負がついたという事実は、奇跡としか言いようがありません。

こうした名局の棋譜を並べてみたい方は、将棋盤をご自宅に用意することをお勧めします。画面上で見るのとは違い、実際に駒をパチリと打つことで、400手に及ぶ棋士の執念が指先から伝わってくるはずです。

プロの最短手数

将棋の手数は何通り?全パターンは?平均候補手は?

逆に、最も短い対局は何手でしょうか。

これは「反則」を含むかどうかで変わってきます。プロと言えども人間。極度の緊張や勘違いから、信じられないミス(反則)を犯すことがあります。

反則による最短記録

記録上、最も短いのは、対局開始直後の反則負けです。理論上は「1手目」での反則もあり得ますが(後手番なのに先に指してしまう等)、有名なのは数手での反則です。

  • 2手目での反則(厳密には後手が1手目を指した直後の反則など)
  • 7手目、9手目での反則

例えば、有名な「二歩(歩のある筋にもう一枚歩を打つ)」による反則負けは、プロの公式戦でも数年に一度発生します。また、「動けない場所に駒を動かした」「成れない場所で成った」などの反則も稀に起こります。

反則なしの最短記録(投了)

反則以外で、正当な指し手による決着(投了)としては、どのくらい短いのでしょうか。

通常、プロ同士ならどんなに大差になっても30手〜40手くらいまでは指すのが礼儀とも言えますが、急戦定跡のハメ手にハマってしまった場合や、うっかり大駒をタダで取られるような致命的なミスをした場合、20手〜30手台で投了するケースが存在します。

過去には、定跡の錯覚から30手未満で勝負がついた例もあります。

短い手数で終わる将棋は、一瞬の切れ味が命です。それは居合切りのような緊張感を含んでいます。

詰将棋の最長手数「ミクロコスモス」

実戦(対局)ではなく、「詰将棋」の世界における最長手数は、もはや狂気の領域です。

1986年、橋本孝治氏によって発表された作品。その名は「ミクロコスモス」

この作品の手数は、なんと1525手です。

誤植ではありません。千五百二十五手、です。

この作品は、将棋盤という小宇宙(ミクロコスモス)の中で、駒たちが幾何学的な舞踏を繰り広げます。攻め方の駒が邪魔になり、それを消すために遠回りをし、また新たな駒が出現し……という、気の遠くなるような手順を経て、最後に王様が詰み上がります。

「ミクロコスモス」は、単なるパズルを超えた、人類の知性が到達した一つの頂点として、今も燦然と輝いています。この作品の解説を読むだけでも、SF小説を一冊読むような知的興奮を味わえるでしょう。

もしあなたが、物語としての将棋を楽しみたいなら、ブックライブで将棋を題材にした小説や漫画を探してみるのも一興です。極限の思考に挑む棋士たちの姿は、多くのクリエイターを刺激し続けています。

2手指し(反則)

「手数のあれこれ」として忘れてはならないのが、アマチュアの大会などで稀に見られる、しかしやってはいけない「2手指し」です。

これは「相手の手番なのに、自分が続けて2回指してしまう」という反則です。夢中になりすぎて、自分の指した手が相手の手だと勘違いしたり、相手が考え込んでいる間にうっかり手を出してしまったり。

当然、即座に反則負けとなります。プロの公式戦ではまず見られませんが、非公式の場やネット将棋などでは、クリックミスも含めて起こり得るハプニングです。

将棋は対話です。相手の言葉(着手)を待たずに喋り続けることは、ルール上もマナー上も許されないのです。

チェス・囲碁・オセロの手数は何通り?

将棋の複雑さをより際立たせるために、他のボードゲームとの比較を表にまとめました。ここでは「局面数(State-space complexity)」と「ゲーム木の複雑性(Game-tree complexity)」を並べてみます。

ゲーム盤面の広さ局面の状態数
(あり得る盤面のパターン)
ゲーム木の複雑性
(あり得る棋譜の総数)
オセロ8 × 8約 10の28乗約 10の58乗
チェス8 × 8約 10の43乗〜50乗約 10の120乗
(シャノン数)
将棋9 × 9約 10の71乗約 10の220乗〜226乗
囲碁19 × 19約 10の170乗約 10の360乗

解説:

  • オセロ:すでにコンピューターによって完全解析(双方最善なら引き分け)がなされています。10の58乗でも、現代の計算能力なら解明の範疇に入りつつあります。
  • チェス:10の120乗。これも天文学的ですが、将棋に比べれば「狭い」と言えます。AIが人間を完全に凌駕したのは1997年のディープ・ブルーが象徴的です。
  • 将棋:チェスよりも盤が広く、何より「持ち駒」ルールが複雑性を跳ね上げています。10の220乗という数字は、囲碁には劣るものの、ゲームとしての「読みの深さ」や「逆転の要素」において特異なバランスを保っています。
  • 囲碁:19路盤という広大なフィールドのため、数字上は最強です。しかし、囲碁は「布石」などの抽象度が高く、将棋のような「詰む・詰まない」の鋭角的な読みとはまた違った難しさがあります。

これらのゲームの違いを楽しむために、囲碁将棋チャンネルでは、将棋だけでなく囲碁の講座や対局も放送されています。両方の世界を知ることで、それぞれの「無限」の味の違いがわかるようになるでしょう。

私の見解:10の220乗という「絶望」と「救い」についての考察

ここまで、将棋の手数が持つ天文学的な数字について解説してきました。最後に、いち将棋ファンとして、この「無限」という概念が私たちに何を問いかけているのか、少し個人的な考察を述べたいと思います。

正直なところ、10の220乗という数字を知ったとき、私は軽い「絶望」を覚えました。

どれほど定跡を覚えようとも、どれほど詰め将棋で読みの力を鍛えようとも、私たちはこの巨大な樹海の入り口で、小石を拾っているに過ぎないのではないか。そう感じてしまったのです。

しかし、今はこう考えています。

「解き明かせないからこそ、将棋は美しいのだ」と。

不完全であることのロマン

もし、将棋の手数が「100通り」しかなかったらどうでしょうか。江戸時代に生まれたこのゲームは、明治を迎えることなく廃れていたでしょう。底が見えてしまった井戸に、人は喉の渇きを癒やす魅力を感じません。

10の220乗という、事実上の「無限」。
これがあるからこそ、私たちは盤上に「正解」ではなく「自分だけの物語」を描くことができます。

AI(人工知能)が提示する評価値は、確かに数学的な「正解」に近いかもしれません。しかし、人間同士の対局において心を震わせるのは、AIが「疑問手」と判定するような、泥臭く、人間味に溢れた一手であることが多々あります。

恐怖に震えながら踏み込む一歩。
読み抜けを恥じて顔を赤らめる瞬間。
負けを悟りながらも、美しく散るために指し続ける終盤。

この無限の荒野の中で、道に迷い、転び、それでも前へ進もうとする人間の「足掻き」こそが、将棋というゲームの本質的な価値なのではないでしょうか。

言葉のない対話としての将棋

また、この膨大な選択肢は、対局者同士の高度なコミュニケーションを可能にします。

「なぜ、そちらを選んだのか?」
「激しい戦いを望んでいるのか、穏やかな収束を望んでいるのか」

盤上に指された一手は、80通りの候補の中から選ばれた、相手へのメッセージです。言葉を一言も交わさずとも、駒音だけで相手の性格や、今の心理状態、あるいは人生観までもが伝わってくる。

これは、選択肢が無限に近いからこそ成立する奇跡です。限られた選択肢しかないゲームでは、ここまでの「個性の発露」は生まれません。

私たちは、10の220乗という深淵を覗き込みながら、そこに恐怖するのではなく、その広大さを遊び場として享受すべきなのです。正解なんてわからなくていい。わからないからこそ、今日の一局は、昨日までのどの一局とも違う、新しい輝きを放つのです。

もしあなたが、この「答えのない問い」に疲れを感じたときは、先人たちが紡いできた物語に触れてみてください。将棋のアニメや漫画には、勝敗を超えた棋士たちの生き様が描かれています。それらはきっと、数字の重圧からあなたを解放し、再び盤上へと向かう勇気をくれるはずです。

よくある質問Q&A

将棋の手数は何通り?全パターンは?平均候補手は?

最後に、将棋の手数やパターンに関してよく寄せられる疑問に、Q&A形式でお答えします。

Q1. 人間のプロとAI、どちらが多くの手を読んでいますか?

A. 数で言えば圧倒的にAIです。
AIは1秒間に数千万〜数億局面を読むことができます。一方、人間のプロ棋士が読む数は、1秒間に数手〜数十手とも言われます。しかし、人間は「直感(大局観)」によって、無駄な手を瞬時に切り捨て、有望な手だけを深く掘り下げる能力に長けています。AIは「数」で、人間は「質」と「直感」で、この無限の荒野を歩いているのです。

Q2. 千日手(せんにちて)はどう数えるのですか?

A. 千日手局は、一度リセットされて指し直しになります。
同一局面が4回現れると「千日手」となり、その対局は無勝負となります。そして、先手後手を入れ替えて、最初から指し直し(リプレイ)となります。公式記録上は、千日手局の手数と、指し直し局の手数は別々に記録されることが多いですが、棋士の体感としては「1局で2局分指した」ような疲労感になります。

Q3. 将棋が「完全に解明」される日は来ますか?

A. 近い将来には来ないでしょう。
オセロやチェッカーのように「初手から双方最善を尽くせばどうなるか(結論)」が出ることを「完全解明」と言います。将棋の場合、10の220乗という複雑さがあまりに巨大なため、現在のコンピューターの進化速度をもってしても、完全解明には数百年、あるいはそれ以上かかると予測されています。私たちが生きている間は、将棋は「謎」を含んだ魅力的なゲームであり続けるはずです。

まとめ:将棋の手数は何通り?盤上の宇宙、10の220乗の果てなき旅

将棋の手数は何通り?全パターンは?平均候補手は?

盤上の9×9、計81マス。

それは、木と漆で作られた小さな板の上に過ぎません。しかし、そこには全宇宙の原子数を遥かに超える「10の220乗」という無限の物語が眠っています。

本記事で触れた要点を振り返りましょう。

  • 将棋の全パターン:約10の220乗(ゲーム木の複雑性)。宇宙の全原子数(10の80乗)を遥かに凌駕する。
  • 平均候補手:約80通り。チェスの倍以上あり、持ち駒ルールがその要因。
  • プロの最長記録:420手(持将棋局)。不眠不休の精神戦。
  • 詰将棋の極北:「ミクロコスモス」の1525手。

私たちは、将棋を指すたびに、この無限の可能性の中から「たった一つの未来」を選び取っています。それは、星の数ほどある運命の分岐点から、自分の意志で道を選ぶ行為に他なりません。

次に駒を手に取るとき、その小さな重みの中に、悠久の時と無限の広がりを感じてみてください。きっと、いつもより少しだけ、深く、美しい一手が指せるはずです。

そして、この深淵なる世界をもっと探求したくなったら、ぜひ以下のリンクからさらに深い沼へと足を踏み入れてみてください。

盤上の宇宙は、いつでもあなたを待っています。

参考文献・出典リンク